12 June 2003 医療コラム(Dr 永山) その3
シンガポールのSARS流行に関する中間報告(2)
 

シンガポールのSARS流行に関する中間報告(2)

前々回に引き続いてシンガポール政府から開示されているSARS流行に関する報告をお送りいたします。今回はSARSスーパースプレッダー(SS)についてお示します。シンガポールでは4月30日までに5人のSSが確認されています。このようなSSとは喀痰などのSARSウイルス検査陽性のSARS患者で10人以上の他者にSARSを感染させた者と定義されています。

各5人のSSの状況について述べます。

「Case1」 22歳の女性。2月20日から2月25日まで買い物旅行に香港へ行き、九龍のホテルに宿泊した。2月25日シンガポール帰国後、発熱、空咳が出現。

3月1日胸部レントゲン写真上肺炎を示したためタントクセン病院(TTSH)5A病棟に入院した。3月4日には呼吸状態悪化のため、集中治療室(ICU)に移された。3月6日には呼吸状態改善が認められたため3月6日から11日の間再び5A病棟に戻った。3月11日8A病棟に移動。この患者は発病後の入院期間中に直接21人(医療従事者9人、家族・見舞い客12人)に感染させ、この21人中3人(両親、見舞い客)が亡くなっている。さらにこの患者はシンガポールのSARS流行の起点となり、直接・間接的にSARS患者172人を生み出す結果となった。

「Case2」 27歳の看護婦。発病前TTSH5A病棟でCase1の看護に従事した。3月7日に体調不良。3月10日に発熱、のどの痛みを訴え、胸部レントゲン写真上両肺に肺炎増が認められたためTTSH8A病棟に入院。3月13日にSARSと診断され隔離となった。この看護婦は23人(医療従事者11人、家族・見舞い客12人)にSARSを感染させたと考えられている。

「Case3」 53歳男性。糖尿病と虚血性心疾患があったが今回、細菌性敗血症のためTTSH8A病棟に3月10日に入院。この男性は上記Case2と同じ6人病室に入院した。3月12日に発熱、人工呼吸を要する呼吸困難を示し、重症うっ血性心不全と診断されたが、3月20日にSARSと診断され隔離された。しかし病状好転せず3月29日に死亡した。この患者は23人(医療従事者18人、家族・見舞い客5人)のSARS患者と直接に関連があった。

「Case4」 60歳男性。TTSH5A病棟に慢性腎不全のため3月5日から20日まで入院していた。3月24日下血を伴った消化管出血を発症しシンガポール総合病院(SGH)57病棟に入院となった。入院時、微熱があったが胸部レントゲン検査は正常であった。3月28日には38.8℃の高熱を呈したが、胸部レントゲン写真は正常で抗生物質が投与され3月29日に58病棟に移動した。3月30日も胸部レントゲン写真は正常であった。4月3日に抗生物質を変更して改善傾向となった。しかし、4月4日突然レントゲン上肺炎像が出現したためSARSが考えられ隔離された。この患者はTTSH5A病棟入院中にCase2と関連したSARS患者からうつされたと推定されている。この患者は40人(医療従事者37人、見舞い客3人)にSARSを感染させたとされている。

「Case5」 64歳の男性。虚血性心疾患、心不全の既往歴あり。上記Case4の実兄である。この男性は3月31日にSGHに入院中である実弟のCase4を見舞っている。4月5日発熱、咳が出現した。4月8日急性心筋梗塞よるうっ血性心不全疑いでシンガポール国立大学病院(NUH)に入院。その後心原性ショック(重症低血圧)のため集中治療室(ICU)に移された。4月9日にCase4との接触が確認され、TTSHへ転送となったが、4月12日死亡された。この患者も直接15人(医療従事者5人、その他の入院患者2人、家族2人、タクシー運転手2人、職場の同僚2人、見舞い客1人)にSARSを感染させている。

このようにスーパースプレッダーに共通した特徴はその多くが院内感染で自らもSARSをうつされ、また他の者にうつしていることです。したがって、病院における適切かつ十分な感染防止対策が最も重要なSARS予防法と考えられるのです。事実、厳重な院内感染予防を行い始めた3月22日(TTSH)、4月17日(その他の全病院)以後は院内流行、医療従事者を介した二次感染はなくなっています。つまり、街を歩いていてスーパースプレッダーにSARSをうつされるというようなものではないのです。さらにコミュニティーでのSARS感染拡大防止策としてSARS患者と接触した者、患者家族への厳格な自宅待機処分の実行も有効であったと考えられます。このような予防策の有効性は国土面積、人口に違いはありますが、上記2つの方法が確実に実行されなかった中国、香港、台湾でSARS封じ込めが困難であったことからも明らかだと思います。 

永山 憲市

 

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