医師コラム

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医療の不確実性2

前回に引き続き医療の不確実性についてのお話を続けます。人間という複雑なシステムを対象とする医療においては、確立された標準的な治療を行っても改善が見られなかったり、あるいは思わぬ反応が見られることもあります。医学の発展によって、抗がん剤の有効性についてあらかじめ遺伝子のタイプで見通しを立てたり、長期に投与する薬剤に対して副反応が起きやすいかどうかを投与前に検査しておくといったことが少しずつ行われてきてはいますが、体質は一人ひとり異なっており、また薬剤も無数と言っていいくらいたくさんあるので、これからも「想定外」のことは起こり続けると思います。

医療は不確実性を前提として、つまり診断においても治療においても100%はあり得ないという前提のもとで、どの選択肢が最も安全で最終的に最大限のプラスになるかということを天秤にかけながら行っています。わかりやすい例でいえば、薬の副反応の頻度や程度は少ないほうがいいに決まっていますが、抗がん剤のようなどうしても使わないといけない薬では骨髄抑制という命を脅かす副反応が100%発生することが分かっていても、血液検査をして量を加減しながら使用されています。逆に、風邪に使われる薬でも頻度は相当低いですが骨髄抑制を起こしたり重度の薬疹で失明したり、ときには命を落としたりする確率がゼロではありません。

私たち医療者は、こういったメリット・デメリットを常に天秤にかけながら診療をしています。かつて風邪の治療で「念のため出しておきましょう」という言葉とともに処方されていた抗生剤の使用量はかなり減ってきていますが、これは風邪のほとんどがウイルス性であり抗生剤を使う必要がないことや予防的に抗生剤を内服しても2次的な細菌感染を防ぐことができないというエビデンスがはっきりしてきたためです。

さらに、このように安易に抗生剤を使用することで耐性菌が発生して本当に抗生剤が必要である細菌性扁桃炎や急性中耳炎の治療に難渋したり、腸内細菌のバランスが崩れて「病気にかかりやすい体質」になったりします。したがって、抗生剤を処方するということは、医師の頭の中で天秤が動いた結果メリットがデメリットを上回ったことを意味します。また、ホクナリンテープという喘息発作などで処方される張り薬は、心臓がどきどきしたり眠れなくなったり、さらには吐き気を催したりする副反応が比較的でやすい薬です。つまり、デメリットがそれなりに大きい薬ですので、メリットのほうがより大きくないと天秤は処方に傾きません。また、ホクナリンテープは咳を抑える作用はありませんので、医師の指示がなく自宅に余っているテープを自己判断で張ることはおやめください。(テープによって濃度が違うこともリスクになります。)

最後は少し脱線しましたが、医療現場では100%はあり得ず、あくまでメリット・デメリットを天秤にかけて判断し、経過によってこのバランスが変化した時点で再び天秤にかけるという作業を繰り返していることをご理解いただければ幸いです。

次回は引き続き、患者さんが医療の不確実性をどのように理解し、対応していけばよいかという点についてお話しする予定です。

医師 長澤 哲郎