医師コラム

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予防接種3

いま日本では麻疹(はしか)が流行していますが、それでも患者数は100人を超えた程度です。しかし、シンガポールは近隣諸国に数千から数万人もの患者数を数える国が多数存在しており、人の往来を考えるとリスクは日本よりはるかに高いです。
この機会に、子供だけでなく大人も2回接種を(タイミングではなく回数が重要です)確実にしておきましょう。日本では感染リスクが少ないためMR(麻疹・風疹)ワクチンは1歳と5~6歳で接種しますが、リスクが高いシンガポールに滞在する場合は2回目をできるだけ早く済ませておくことが大切です。

さて、今回は最も関心が高い予防接種の副反応(副作用)についてお話しします。予防接種を含め、あらゆる医療行為には良い面(効果)と悪い面(合併症や副反応)があります。身近な例では、自動車は生活になくてはならないものですが、交通事故により日本だけで年間4千人の方が亡くなり65万人の方が負傷されています。これは、日本人の180人に一人が毎年交通事故で死亡または怪我をしていることになりますが、だからといって誰も車を禁止しようという主張はしません。悪い面が大きくてもそれを上回る良い面があるからです。
予防接種もそれと同じで、効果と副反応を比較して明らかに効果が高いために存在することになります。この比較は、病気の流行状況や時代による考え方などによって変化していきます。ポリオは足に麻痺が残るため、一生車椅子や松葉杖を使った生活を強いられます。1960年に日本で大流行した際、生ワクチンを緊急輸入して接種した結果、6千人の患者数がわずか2年で100名にまで激減し、1970年以降は1桁が続いています。しかし、そうなると生ワクチンの副反応であるワクチンそのものによる足の麻痺が問題になりました。これは数百万回に1回の割合で起こるもので、流行時には生ワクチンの良い面(流行を根絶できる)に比べて問題にならない状況でしたが、流行が収まると1、2年に1例程度であっても副反応が相対的にクローズアップされます。このため、2012年からこの副反応が起きない不活化ワクチンに切り替えられました。

このように副反応の評価、すなわち良い面と悪い面の比較は時代や国によって変わってきます。日本脳炎ワクチンの改良もその流れで捉えると分かりやすいです。日本脳炎は致死率が30%程度で後遺症率50%以上という恐ろしい病気で、日本でも1970年代までは数千人の報告がありましたが、1967年から75年まで全国規模で予防接種強化を行った結果10ー20人程度まで減少しました。しかし、日本脳炎ワクチンはけいれんや意識障害を起こす神経系の副反応が他のワクチンよりかなり多く、年間一人程度報告されているので、患者数の減少とともに良い面と悪い面の比較が微妙になってきました。このため新しいワクチンが開発され、2009年からはこの副反応を極限まで抑えることができました。

このように現在使われているワクチンは各種の改良の結果、安全性は以前と比較にならないくらい高まりましたが、どこまでいっても副反応の可能性はゼロにはなりません。しかし、悪い面ばかりに眼を向けて予防接種をせずにいると、命に関わる恐ろしい病気に容易に罹ってしまいます。予防接種を受ける際は、この良い面と悪い面をしっかり理解した上で受けるようにしましょう。疑問点があれば、お気軽に担当医に確認してください。

医師 長澤 哲郎