医師コラム

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医療の不確実性1

前回までネットで医療情報を検索するときの注意点についてお話してきました。今回から少し話題を変えて、医療の不確実性ということについて私の考えをまとめてみたいと思います。医療機関を受診される際、この「医療の不確実性」が頭にあると想定
外のことがあっても落ち着いて対応ができるようになります。

どこのクリニックで最も多い患者さんは「風邪」であることは間違いないでしょう。ほとんどの風邪は1週間から10日くらいで問題なく治っていきますが、ごくまれに肺炎になって入院が必要となる場合があります。もともと免疫が弱かったとか肺に問
題があるということがなく、元来健康であれば咳が出はじめた段階でこの患者さんが1週間後に肺炎で入院しているかどうか、どんな名医だろうとわかりません。同様に、だれが正しい量で薬を処方しても、一定の割合で必ず予期せぬ効果(副反応)が起こってきます。一人ひとり体質が異なるため、100%副反応が出ない薬というものは理論的にあり得ません。これは、交通ルールを100%守って運転すれば理論上は交通事故がゼロにできるのと本質的に異なっています。この、100%はあり得ないということが医療では大切なポイントです。

ひとつ例を挙げます。麻酔は、医療の中で唯一その処置が「生」ではなく「死」のほうへベクトルが向いている、つまり意識をなくしたり感覚を麻痺させるという効果をもたらしますが、それだけにリスクも伴います。薬の量を誤って多く使ったり、想
定以外の部位に注入してしまったというミスではなく、標準的な量を間違いなく目的の場所に使ったとしても、体質とかその日の体調といった不確定の要素により麻酔から目が覚めないといったことが起こりえます。先ほどの肺炎と同様に、誰がこのよう
な状況になるのか予測することはできません。
また、麻酔は問題なかったとしても、手術の合併症で亡くなることもあり得ます。この場合の合併症とは、手術でミスがあったとか下手であるために発生するのではなく、手術そのものは完璧であっても一定の割合で縫合部がほどけたりそこから出血したり、あるいは細菌に感染して熱を出したりといったことを指します。こういった合併症についても、誰にでも起こり得ることであるとともに、予測することは不可能です。

こういった医療の不確実性のもとで診断と治療が行われています。たとえば、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)で手術が必要となった場合、麻酔や手術のリスクはゼロではないことを承知の上で治療を行います。それは、虫垂炎が悪化して細菌がお腹にまき
散らされてしまう状況(汎発性腹膜炎といいます)は死亡率がきわめて高い状態であるので、非常に低い麻酔や手術のリスクと天秤にかけた時には明らかに後者のほうがメリットが大きいためです。
繰り返しますが、ドラマの世界と違って医療には100%はあり得ないので、診断においても治療においても、最終的にはこの天秤が重要になってきます。
次回は、このメリット・デメリットの天秤についてもう少し詳しくお話してみます。

医師 長澤 哲郎